国際交流事業「文化遺産をめぐる対話」
2015年11月3日
各位
特定非営利活動法人南アジア文化遺産センター
理事長 近藤 英夫
(公印省略)
国際交流事業「文化遺産をめぐる対話」の実施について
日頃、弊センターの活動にご理解、ご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
特定非営利活動法人南アジア文化遺産センターは、南アジア諸国における文化・歴史及び文化遺産の研究に係る機関・団体・個人と協力・交流関係を構築、文化遺産の保護・保全と活用を支援し、各国における学術、文化の振興を図るとともに、日本と南アジア諸国との相互理解と協力関係の深化に寄与することを目的として、2014年に設立されました。以来、日本国内における講演会等の普及事業、南アジア諸国における文化遺産保護の支援事業などに取り組んでまいりました。
今回、その一環として、公益財団法人三菱UFJ国際財団による助成を受け、標記国際交流事業を実施することとなりました。
本事業は、「文化遺産はだれのもので、なぜ保護するのか?」その理念と実践の間に立ちはだかる多くの問題について、研究者、学生、そのほかの当事者の対話を通して、展望を見出すことを目的とするものです。弊センターでは、設立当初より、パキスタン、ハイバル・パフトゥンフワ州に所在するハザーラ大学と協力協定を締結し、同国北部の文化遺産保護の支援を進めてきました。新聞報道等を通じて知られている通り、同地域はイスラーム過激主義の影響が強く、時に地域社会がその脅威に晒されているところでもあります。しかしそのような情勢下にあっても、現地の研究者は仏教遺跡を中心とする文化遺産の保護を推進し、また少なからぬ一般市民も肯定的に受け止めています。
この一年ほどの間、世界は、イラク、シリアにおけるIS(自称イスラム国)による遺跡、博物館収蔵資料の破壊、および関係者の殺害といった事態に直面してきました。これまで広く共有されていると信じられてきた、文化遺産を保護することの意義、価値観が揺るがされています。
本事業では、パキスタン、ハザーラ大学より、考古学、文化遺産保護を専門とする研究者、学生、およびイスラーム法学・宗教学、開発経済学、メディア研究の専門家を招聘し、同国におけるイスラームと文化遺産、および地域社会と文化遺産保護の関わりについて、現状を報告していただき、率直な意見交換を行ない、相互理解を深め、より良い協力関係の在り方を模索します。残念なことに、イスラームや現地社会に関する知識、理解の不足により、私たち日本社会は多くの誤解を抱いたままです。一方で、パキスタン側においても、非イスラーム社会からの偏見や蔑視という感情が強く、冷静な対話が難しいという状況があります。私たちは、人と人の直接の対話を通じて、お互いを理解し、尊重し合うことを出発点として、持続的な相互協力関係を構築し、とくにパキスタン社会の安定化に文化的側面から寄与することを目指します。
本事業のプログラムの詳細は別紙の通りです。趣旨に賛同していただける方の多数のご参加をお待ちしております。ご多忙中とは存じ上げますが、是非お運びください。また、関係方への周知をいただければなお幸甚です。
(問い合わせ先)
特定非営利活動法人南アジア文化遺産センター
事務局長 野口 淳
〒183-0033 東京都府中市分梅町1-16-9ライズ分梅502
E-mail:
npo.jcsach@gmail.com
(公財)三菱UFJ国際財団助成事業
「文化遺産をめぐる対話」
開催要項
- 日時:2015年11月23日〜27日 ※プログラムは下記の通りです
- 会場:国立オリンピック記念青少年総合センター、ほか
- 主催:特定非営利活動法人南アジア文化遺産センター
- 連絡先:特定非営利活動法人南アジア文化遺産センター事務局(担当:野口) npo.jcsach@gmail.com
プログラム
ワークショップ1 「イスラームと文化遺産」
- 日時:2015年11月24日(火)14:00〜16:30
- 場所:国立オリンピック記念青少年総合センター・センター棟405号室
※小田急線「参宮橋」下車、徒歩約5分
- 内容:イスラームは他宗教の文化遺産の破壊を命じるのか? イスラーム世界における文化遺産の現状は? イスラーム教徒が多数派を占めるパキスタンにおいて文化遺産の保護や研究はどのように進められているのか? パキスタン、日本の研究者による報告にもとづき、討論を行ないます。
- 認識の共有と討論のきっかけ作りのために以下の話題提供を予定しております。
「イスラームと文化遺産:現状の概観」 | 野口 淳 (NPO法人南アジア文化遺産センター)
|
「シリア内戦と文化遺産の現状」 | 安倍雅史(早稲田大学高等研究所)
|
「パキスタンにおける文化遺産の現状」 | M.ザヒル(ハザーラ大学考古学研究室)
|
- イスラームからの視点、メディア論からの視点、etc.
- 定員:40名 ※参加申込・費用については別記の通りです
ワークショップ2 「地域社会と文化遺産保護」
- 日時:2015年11月27日(金)14:00〜16:30
- 場所:国立オリンピック記念青少年総合センター・センター棟405号室
※小田急線「参宮橋」下車、徒歩約5分
- 内容:文化遺産は誰のものであり、なぜ保護されるべきなのか? この問題を解決する糸口は地域社会との協働にあると考えます。日本における取り組みとの対比を通じて、イスラーム教徒が多数派を占めるパキスタン北部において、仏教文化の遺産をはじめとする文化遺産の保護を推進するための基盤を模索します。
- 認識の共有と討論のきっかけ作りのために以下の話題提供を予定しております。
「日本における文化遺産保護の歩みと現状」 | 近藤英夫(NPO法人南アジア文化遺産センター)
|
「開発経済学からみた文化遺産保護と地域社会」 | S.ファルーク(ハザーラ大学経済学研究室)
|
「観光と文化遺産:タキシラの場合」 | A.ハーン(ハザーラ大学観光学研究室)
|
「パレスチナ自治区における文化遺産と地域社会」 | 間舎裕生(東京文化財研究所)
|
「大規模災害と文化財保護・活用の現状〜地域の視点から」 | 堀江 格((公財)福島市振興公社 文化財調査専門員)
|
- 定員:40名 ※参加申込・費用については別記の通りです
視察研修
東京国立博物館(11/25)、横浜市歴史博物館・横浜ユーラシア文化館(11/26)などを予定しております
(公財)三菱UFJ国際財団助成事業
「文化遺産をめぐる対話」
パキスタン側来日メンバー紹介
1. ムハンマド・ザヒル(Dr. Muhammad Zahir)
- ハザーラ大学考古学研究室主任講師、パキスタン考古学・文化遺産保護
- 1978年生まれ(37歳)、ハイバル・パフトゥンフワ州チャルサダ出身
- ペシャーワル大学で数学・物理学を専攻後、同大学で考古学修士、イギリス・レスター大学で博士号(考古学・古代史)を取得。ペシャーワル州立大学講師(2002〜07年)を経て2007年から現職。
- パキスタン北部における原史時代の墓制研究に従事するとともに、同地方の伝統的な葬制の民族考古学的研究を行なう。文化遺産保護と地域社会の関係についても造詣が深く、地方博物館の運営や地域社会と連携しての遺跡保護にも取り組む。
2. ムハンマド・リアーズ・ハーン(Dr. Muhammad Riaz Khan)
- ハザーラ大学イスラーム・宗教学研究室准教授、イスラーム法学・比較宗教学
- 1972年生まれ(43歳)、ハイバル・パフトゥンフワ州ローワー・ディール出身
- ペシャーワル大学でアラビア語・イスラーム研究を専攻後、同大学でイスラーム研究、エジプト・アル=アズハル大学でイスラーム研究・アラビア語修士、国立現代言語研究大学(イスラマバード)で博士号(イスラーム研究)を取得。国立現代言語研究大学講師(2004〜11年)を経て2012年から現職。
- イスラーム法学者であると同時に、仏教をはじめとする多宗教の法典の収集と比較研究に取り組む。パキスタン北部における仏教文化遺産の保護について、イスラーム聖職者の立場からその意義を考察するとともに、地域住民への周知にも取り組んでいる。
3. ソーハイル・ファルーク(Dr. Sohail Farooq)
- ハザーラ大学経済学研究室講師、開発経済学・国際援助研究
- 1981年生まれ(34歳)、ハイバル・パフトゥンフワ州ハリプール出身
- ペシャーワル大学イスラミア・カレッジで経済学を専攻後、国際イスラーム大学(イスラマバード)で経済学修士、イギリス・グラスゴー大学で博士号(経済学)を取得。2006年より現職。
- 開発経済学者として、社会資本整備や人材育成に関わる国際援助を中心に研究と実践(コンサルタントなど)を行なっている。社会資本整備の一環として、地域社会と文化遺産保護の関係に強い関心を持っている。
4. ヌールッル・アフターブ(Nool-ul Aftab)
▲都合により来日キャンセルとなりました
- ハザーラ大学情報・メディア研究室講師、ジャーナリズム・マスコミ研究
- 1983年生まれ(32歳)、ハイバル・パフトゥンフワ州チャルサダ出身
- ペシャーワル大学でジャーナリズム・マスコミ研究を専攻後、同大学で修士号を取得。日刊紙 ”Today’s Muslim”記者、NGO “Future Vision Organization”広報担当などを経て、2006年より現職。
- ハザーラ大学でジャーナリズム・マスコミ論の教育を担当する傍ら、大学が主宰する”Campus Radio Station” (FM 98.6)の設立・運営に関わり、現在はTV放送局の設置を進める。メディアが地域社会に果たす役割の観点から、文化遺産保護の取り組みに注目している。
5. アシーフ・ハーン(Asif Khan)
- ハザーラ大学観光学研究室博士課程大学院生、観光学・文化遺産保護
- 1979年生まれ(37歳)、ハイバル・パフトゥンフワ州スワービー出身
- ペシャーワル大学スワービー・カレッジでを統計学・数学を専攻後、ペシャーワル大学で経営学修士(MBA)、ハザーラ大学で修士(M.Phil)号を取得。
- 修士課程において世界遺産タキシラを事例として持続的な観光業と文化遺産の関係を研究、博士課程でも引き続き文化遺産と観光の関係を研究している。
6. イーサンヌッラー・ジャン(Ihsanullah Jan)
- ハザーラ大学考古学研究室修士(M.Phil)課程大学院生、考古学
- 1976年生まれ(39歳)、ハイバル・パフトゥンフワ州ペシャーワル出身
- ペシャーワル大学で考古学・イスラーム美術・書道を専攻、同大学で考古学修士(M.A.)号を取得。引き続きハザーラ大学でイスラーム時代の考古学を研究している。
7. ハック・ナワーズ(Haq Nawaz)
- ハザーラ大学考古学研究室修士(M.Phil)課程大学院生、考古学
- 1976年生まれ(39歳)、ハイバル・パフトゥンフワ州チャルサダ出身
- ペシャーワル大学で統計学・数学を専攻後、同大学で考古学修士(M.A.)を取得。引き続きハザーラ大学で貨幣学と考古学を研究している。
8. アブドゥル・ガーニー・ハーン(Abdul Ghani Khan)
- ハザーラ大学考古学研究室修士(M.Phil)課程大学院生、考古学
- 1990年生まれ(26歳)、ハイバル・パフトゥンフワ州ペシャーワル出身
- ペシャーワル大学で数学・物理学を専攻、アラマ・イクバル・オープン大学(イスラマバード)で考古学を専攻後、ハザーラ大学で考古学研究室修士(M.A.)号を取得。引き続き同大学で考古学を研究している。
v